いま本当に円高なのか?飯田泰之寄稿 VOICE11月号

円高が進んでいる中、9月15日に政府・日銀は為替介入を実施したが、その効果は一時的であったようだ。
さて、この円高、よく「円高ではなく、アメリカの経済事情によるドル安なんだ」とか「実質実効為替レートでみれば、現在の為替水準はそれほど円高ではなく、日本経済に影響はない」という主張に出会うことがあるが、本当にそうなんだろうか?という疑問があった。
この疑問に解りやすく解説してくれているのが、VOICE11月号に寄稿されている飯田泰之先生の「いま本当に円高なのか?」である。

まず、「為替とは何か?」の解説から始まる。
(1)為替レートは二国の通貨の交換比率であり価値の比率である、(2)潤沢にあるものの価値は低く、相対的に希少なものの価値は高い、ということを理解することが大切である。
このことを念頭に、現状の為替レートを見てみる。
よくアメリカの経済情勢の視点から「円高ではなく、ドル安なんだ」という主張があるが、飯田先生は、片岡剛士氏による小論「ドル安ではない。円高こそ問題だ。」(Synodos Journal 2010/9/2)を引用されその反論が為されている。
要は、二〇〇七年一月に比べ、主要九通貨すべてに対し円高が進んでいるが、ドルは三通貨に対し高くなり、三通貨について安くなっており、必ずしも「ドル安」とは言えない事がわかる。

そして、「実質為替レートにおいては現在は円高とはいえない」(※本文中では、「円安とはいえない」となっているが、円高の間違いでは?*@hyaku_oyajiさんからの参照エントリー)という主張はどうであろうか?
まず、為替為替レートにも「名目」と「実質」があることを理解しないといけない。名目はもちろん我々が日ごろニュースなどで目にしている為替レートのことであり、実質為替レートとは、ある基準年を一とした現在もしくはある時点の為替レートを見たときに円安なのか円高なのかを見るものである。
ここで、注意しなければいけないのが、実質為替レートの概念は、「現時点での(為替の)売買における有利・不利」を表しているのであり、「企業収益や日本経済にとってのよしあし」とは一致しないということである。
その理由を飯田先生は二つの名目硬直性にあると解説されている。
第一に企業の負債は「日本円での金額」で固定されているため、名目為替レートが円高になると、実質の負債が増加する。そして、第二に賃金も同様であり、名目為替レートの円高が実質賃金の上昇を招き、如いては雇用の流出を招くことになる。
このことから、実質為替レートではなく、名目の為替レートが日本経済、企業収益、さらには労働市場に影響を及ぼすことが見えてくる。
また、実質為替レートの水準を見る場合には、物価水準も抑えておく必要があり、日本経済はデフレが進行していることを忘れてはいけない。

この理解を無視して、いまはまだまだ円高ではないとか、円高・デフレは好機であるとか、企業努力が足りないなどという主張が経済の一面だけを見た誤ったものであることが分かるはずである。(もちろん、企業努力や自助努力が不要というわけではないが。)
このように、正しい定義の解釈を前提に、適切なデータを用いて事実を見れば、直ちになにが正しくて誤りなのかが見えてくるはずである。