もうダマされないための経済学講義 若田部昌澄著

経済学はなんだか難しそう、経済ってそもそもなんだろう?という方にはお勧めの一冊です。若田部先生が、難解な数式やデータではなく、わかりやすい言葉で講義を進めてくれます。特に、歴史を知る、歴史に学ぶという視点で世界大恐慌や日本の高度成長期、バブル前後の歴史を紐解きながらの講義は、とても勉強になりますし、歴史を正しく理解することの大切さも学ぶこともできるのではないかと感じた次第です。
さて、その講義の一端を紹介していきましょう。
冒頭の「はじめに―なぜダマされてしまうのか?」では、講義の予習編となっています。
経済学を学ぶ上での四つの概念(キーワード)は、インセンティブ、トレード・オフ、トレードそしてマネーであるということ。
第一講義では、よく耳にする議論でもある、経済成長って必要なの?、市場の役割、政府の役割ってなに?、自由貿易ってどうなの?そして、インセンティブの力って?という点を端的に解説されてます。主義主張の違いあれど、経済学の目指すものは、資本家や金持ちの味方することでもなく、金を稼ぐための学問でもありません。市場を通じて、そこに参加している双方にメリット(利益)をもたらし、全体の利害にとって一番よい結果を出すためにはどうしたらよいのかを考える学問であるということ。そのために、市場というものを良い方向へ促進させていこうと考えていくのが経済学であるってこと。
第二講義では、再分配とトレードオフについて、田中角栄日本列島改造論による高度成長期を事例に講義が進めれています。田中角栄が実現しようとしたこと、都市から地方へ、金持ちから貧乏人へという再分配であったのだが、このことが経済学的には正しかったのかどうか。著者によれば、田中角栄に決定的に欠けていたものが、経済学的な考え方であると。なぜ都市に人々が集中するのか、その理由を正しく理解もせず再分配をやろうとしたという点を指摘されています。そういう意味では、今の政治家も経済学を理解し政策立案をしているのだろうか?という疑問を感じずに入られません。有権者である国民がすこしでも経済学を理解することで、それらの主義主張や政策が正しいのかどうかを見極める力を身につけることで、もうダマされないということにつながるのだろうとは思うのですね。
そのためには、経済学を学ぶ動機、いかにそのインセンティブが働くようにしていくか?が重要なんでしょうね。結果的にそのインセンティブが人々の生活の向上と安定につながっていくのだということが、広がれば日本の経済の先行きも明るいものになるような気もするのですが。
第三、第四講義が同書のもっとも重要なパートになりますね。マネーの話です。
マネーというとなにやら怪しげというか、次元の違うところの話というような感覚を持つ人もまだまだ多いような気がします。このパートで紹介されている世界大恐慌時の各国の状況、昭和恐慌時の日本の金融政策、それられに関連深いデフレや通貨、金本位制などのことが詳しくなおかつわかりやすく分析、解説されているので、ぜひ精読してほしいところです。
現代の管理通貨制度に移行した経済では、そのマネーを司る各国の唯一無二の政府機関が中央銀行、日本であれば日本銀行になるのですが、その日本銀行が運営する金融政策が、その目的である物価の安定、如いては雇用の安定を達成できているのかということを、明らかにしていっています。マネーの存在を正しく理解すれば、長年続くデフレも企業を苦しめている超円高の理由もおのずと理解できるというもの。そうすれば、日本銀行の行動か正しいのかどうか?、金融政策ももう少し社会問題として取り上げられるようになる気もするのですが。
その日本銀行がなぜデフレや円高を結果的に放置しているような金融政策をとっているのかも、彼らの政策運営のインセンティブがどこにあるかを考えれば、その理由の一端が見えてくるでしょう。その点も若田部先生がわかりやすく解説されてます。
経済学は、インセンティブの学問だという言いますが、それはお金にまつわることだけでなく、人々の行動にもつながる重要な要素であることが同書を読めば、わかってきます。そのことを理解できれば、日本経済を取り巻くいろいろな主義主張に触れたときに、もうダマされる事なく一人ひとりがその主義主張を見抜く力が備わってくると思います。