【朝日新聞】オピニオン欄 八田達夫氏『「独占」の弊害なくす契機』

4月12日付け朝日新聞朝刊のオピニオン欄に計画停電をテーマに、八田達夫氏が寄稿されていた内容が自分にとっては大変参考になったので、こちらに記録の意味も兼ねて転記してみた。
なお、転記部分は引用欄に、引用ごとの記述は小職の雑感ですので、気になさらずに。

東京電力計画停電は、とんでもない「無差別停電」だった。原則廃止を決めたのは当然だ。
そもそも電力会社は、大口需要家の企業と需要調整契約を結んでいる。電力を安く販売するかわりに供給能力が不足したら節電を求めるものだ。これを徹底して行使せず、一般家庭の電力を一方的に切り、信号機や電車、病院など社会インフラの電力を切った。町工場や商店も大混乱した。いくら緊急事態でもこれは許されない。
もし需要調整契約で不十分だとわかったら、経済産業省は震災直後から電気事業法第27条を発動し、東電の大口需要家に電力の使用制限を命令すべきだった。違反すれば賦課金もかけられるので、計画停電は避けられた。経産省はいったい何をしてたんだろう。

大震災という想定外の事態を理由に、電力の需要家もやむなく計画停電を受け入れてくれるであろうと、東電も経産省も安易に考えていたとしか思えない。

近年、商社やメーカーが電気を供給する設立し、電力市場に参入している。ところが、計画停電で東電はこうした企業の顧客への電力も切った。送電線にはなにの問題も起きていない。顧客に電力を送る託送の中立を義務付けている電事法に従えば、他の発電事業者の顧客に迷惑をかけるべきはなかった。日本卸電力取引所での東電管内取引が震災後、停止しているのも奇妙なことだ。

東電が自分の立場しか考えていないという証左ではないかと思ってしまう行為ですね。

■節電促す工夫を
この夏の電力不足対策として、政府は電事法第27条を発動するという。効果は期待できるが、目標量以上の節電への動機が与えられていないことは問題だ。
目標量を事前に市場で取引できるようにすれば、夏休みを多く取り、節電の余裕を持つ会社は自社の目標量を売却して利益を得る。めっきやIT企業のように、一瞬でも電気が途切れれば困るという会社は、目標量を事前に購入することで工場を止めずにすむ。
目標値を超えて電力を使えば賦課金を課すだけではなく、節電したら補助金をつける。そうすれば、より効果的だ。もちろん使用制限は東電の顧客に限るべきだ。
家庭に対しても、真夏の間は昨年の使用量に基づく月間の使用目標値を定め、賦課金や補助金を組み合わせる措置を取ってはどうか。節電家電の購入に対するエコポイント制も役立つだろう。

必要な時に必要な量を求め、供給できるように各需要家に適切なインセンティブが働くようにする仕組みが必要って事ですね。

静岡県東部にある東電管内の配電地域を中部電力に分離する手も検討に値する。富士川を越えて送電線を敷設し、周波数60ヘルツの電力をこの地域に直接持ってくる。家庭は周波数が変わってもほとんど困らない。問題が起きそうな工場には政府負担で変換機をつける。これによって東電の供給負担は減り、停電の恐れも少なくなる。
日本の東西で周波数が異なることが電力の安定供給の大きな障害になっている。静岡県東部の分離を第一歩として次は神奈川に60ヘルツ領域を広げ、いずれは全国単一周波数にすべきだろう。

この点はどこまで議論が進んでいるかわかりませんが、当初は費用や期間が莫大にかかり現実的でないという議論があったのは確かですね。やれるところからやっていくという考えでいまから進めないと。

今回の計画停電で明らかになったのは、需給が逼迫した時に節電を促す仕組みが日本の電力供給体制に不十分なことだ。電力が不足した時も顧客は使いたいだけ使い、電力会社はそれに追随して発電するという危険な体制だ。

結局、節電、省エネが掛け声だけに終わってきたというとこか。

■発・送電は分離
電力の自由化が進んだ多くの欧米諸国では、発電会社と送電会社は別会社だ。発電事業には民間企業の自由な参入を認め、送電線は国営か半官半民で管理している。送電の料金は規制価格だが、電力価格は市場の需給で決まる。電力不足のときにも需要家に節電の動機が生まれる。
需給に応じて自動的に電力節約を促すためには、多くの発電会社による競争によって、時間ごとに細かく形成される電力価格が、安定供給に中心的な役割を果たす制度にする必要がある。そのためには発送電の分離と、発電会社の分割が不可欠だ。
それができていなのは、電力会社の独占力のためだ。私は経産省総合資源エネルギー調査会の委員を長年つとめた。そこで感じたのは、さまざまな癒着ともたれ合いの構造だ。
電力業界は会社と労働組合の集票力によって政治に影響を及ぼし、役人を天下りで受け入れ、官僚と癒着した。世論形成に影響のあるテレビ番組のスポンサーにもなっている。電力の発送電一貫体制を分割することは、この地域独占を破壊することになる。

日本では、規制緩和、自由化というのが過去のしがらみや既得権益を守ろうとする一部勢力などの抵抗で中途半端に進んでしまい、健全な市場競争が生まれていないのかも。

欧米並みの制度をまず東電の区域に導入すべきだ。原発被害への賠償に対する国の補助と引き換えに、東電をいったん国有化する。その後、発送電を分離し、発電会社は複数に分割する。いったん国有化することは、発送電分離を可能にする上で重要だ。
欧米では、政府が電力会社から料金を取って原発の使用済み燃料を最終処分する仕組みだが、日本では押すなっていない。これでは費用がわからず、原発を推進すべきか否か経営判断できない。
こんな制度では、国と電力会社が責任を押し付けあって、問題を先送りするだけだ。東電から原発を切り離し、政府の管理下に置くべきだ。責任を誰が取るのか、あいまいなのが一番いけない。

八田氏が指摘しているように、今の政府と東電のやりとりや関係を見ていると、問題の先送り、責任転嫁を繰り返すだけで、ほんとに解決すべき問題がうやむやにされそうな気がする。これを機に政府の英断を期待したいものだが、どうだろうか。。。